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贅沢貧乏・・・森茉莉と「生まれ」 [<九子の万華鏡>]

九子が生まれた頃、我が家は今よりずっと裕福で、店を手伝ってくれてた人達も4、5人はいた。

そういう人達の筆頭がきたさんであり、その他の人々も、雲切目薬が復活し、そこそこ有名になって地元のテレビで取り上げられたりしたことがご縁で、またお行き会い出来るようになった。

中には有名な魚沼コシヒカリと同じ水源で作られた美味しいお米を30キロの大入り袋一杯に詰めて毎年送って下さる方も居て、M氏との二人暮らしではそれでほとんど1年間米を買わずにすんでしまうほどだ。

せめてもの恩返しに、お正月くらい美味しいものを食べて欲しいと、九子はネットで海産物を選ぶ。
(あっ、ネットサーフィンし過ぎの目にも雲切目薬ね。(^^;;)

彼は結婚後すぐに奥さんと別れ、以来何十年も母親と二人暮らし。百歳近い病んだ母親を昨年看取るまで、ずっと長い間ひとりで介護し続けた。
 
長野弁で「コツ」と言う。誰でも知ってる「こつ」と違って「コ」にアクセントがある。無骨(ぶこつ)のコツと言えば一番わかって頂けるだろうか。不器用で、意地っ張りで、人の言うことを聞かないという意味。
「あいつはコツだからなあ。」という風に使う。彼もそんな人だ。


イクラを送ればイクラは嫌いだと言われ、カニを送れば調理の仕方がわからないと言う。凍ってるのを外に出して、そっちは寒いだろうから2日も待てばそのまま食べられるよと言ったのに、「焼いて食べました。」と言う返事。
でも、美味しかったと言ってもらえた。

海産物はもういらないと言うので、デパートで手頃な値段の都会のチョコレート菓子を送ったら、はじめて嬉しそうに笑った。

そんな彼らは今も田畑に縛られ、土地に縛られて、遊びになど出かける事のない地味な暮らしを十年一日のごとく続けている。インターネットだって、携帯電話すら無用の生活だ。

こんなに地味で冴えない長野の町へ出てくるのさえ、彼らは一張羅を着こんで、まるで上京する時のような出で立ちなのだ。

いつか畑が忙しくない頃に皆で会いましょうと言いながら、なかなか果たせずにいる。


実はМ氏も子供たちも、彼らとの接し方がわからないという。
九子の接し方はぞんざいだという。

ぞんざいと言われれば、九子も、父母が彼らに対してひどくぞんざいだと感じていた。
何かを差し上げる時も、いつも新しいものでは無かった。開封されていたり、期限が切れていたり・・。
それでも彼らは有り難そうに受け取っていた。

要するに対等ではなかったのだ。主人と使用人という主従の関係。
そういう身分関係が、少なくとも昭和40年頃くらいまでは日本中のあちこちにあった。

父母が、九子が感じていたぞんざいさを自分たちではわからなかったように、九子も、子供たちが感じる九子の中のぞんざいさに気がつかない。そういう環境の中にどっぷりと浸かって生きて来た年月が長かったからだろうと思う。

そりゃあ上を見れば切りがないかもしれないが、少なくとも日本はとても平和で平等な国になった。使用人と呼ばれる人は激減し、どこに生まれても平等に教育を受ける権利に恵まれ、親の職業に関係なく努力すれば東大に誰もが入れる世の中だ。

もちろん現代の我が家では、お客さまに差し上げるものも、かつてうちを手伝ってくれていた人々に差し上げるものも同じである。

そうであっても九子の所作をぞんざいと受け止める家族がいるのだとしたら、それはやはり良くも悪くも九子の「生まれ」のせいに違いない。

 

贅沢貧乏という本を読んで以来、森茉莉さんのファンになった。


贅沢貧乏 (講談社文芸文庫)

贅沢貧乏 (講談社文芸文庫)

  • 作者: 森 茉莉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1992/07/03
  • メディア: 文庫


森茉莉さんとは、言わずと知れた森鴎外の長女だ。鴎外に溺愛され、自分の事も自分で出来ないお嬢さまだったと言う。
ほら!どこかの誰かとそっくりでしょ?(^^;;
だから九子は茉莉さんに親近感を覚えたんだと思う。

だけど森茉莉さんは想像を越えていた。
彼女はお嫁に行くまで、やかんでお湯ひとつ沸かしたことがなかったそうだ。
誰ですか!私のほうがマシと安堵してる人は・・。(^^;;

それから彼女は19歳の時、長い長い新婚旅行と言えるものの最中に最愛の父親を亡くす。彼女と夫はパリ滞在中だった。
今と違って親が亡くなったからと言っておいそれとは帰れない時代だ。

彼女にとって「パッパ」と呼んだ父は恋人であり、力強い味方であり、全てを赦してくれる万能の神ですらあったかもしれない。そこは九子とはだいぶ違う。(^^;;

結局彼女は2度の結婚に破れ、以降独身を通した。
理由は、要するに彼女に生活能力も、子育て能力も欠如していたためだ。

wikipediaによると、二度目の夫は東北大学の教授だったそうだが、「仙台には銀座も三越も無いから面白くない。」とグチる茉莉さんに、「それなら実家へ帰って芝居でもじっくり見ておいで。」と優しく言い、それがすなわち三行半(みくだりはん)というやつだったそうだ。


森茉莉さんの作家デビューは50代になってからだ。それまでは父鴎外の印税で食べていけたそうだが、いよいよそのお金も入ってこなくなった。
彼女は一時(いっとき)食うや食わずのずいぶん酷い生活をしていたそうだが、室生犀星や「暮らしの手帖」の花森安治氏がよく面倒を見てくれた。

茉莉さんの生活能力が無いのは有名で、室生犀星など彼女の部屋が散らかり放題なのを見て、夜も眠れないほど心配していたそうだ。
犀星先生っていい人!九子の部屋を見ても心配してくれるかしら・・。(^^;;

それにしてもそうやって素人同然でデビューしても、これだけの力量とは、さすが文豪の娘!

九子が凄いと思ったのは、明治の、特に父森鴎外の高貴な格調を引継ぎ、しかも様々な技巧で飾りつくされた森茉莉の華麗な文体だった。
ウイスキーを「ウヰスキー」と書かれるだけでぞくぞくする!まあそんな単純な読み方だったが、彼女の文章には華やかさと独特な香りと、品格があった。

同じように日本語が美しいと言われる川端康成や、いくら万人が評価しても九子が大嫌いな谷崎潤一郎とは明らかに一線を画していた。

だが彼女が住む家は、まるでゴミ屋敷。

ゴミ屋敷・・と聞くと九子はほっとする。まあ、九子んとこはそこまで酷くはない・・つもり。(^^;; 

茉莉さんが育った環境、要するに「生まれ」では、どんな女性も家事上手になる可能性は少ないと思う。
ついでに言わせて貰えば、出来すぎ母が全てやってくれた九子の育ちでも同様だ。

お嬢様さまお嬢さまとかしずかれ、自分は何もしないですべて誰かがやってくれる。そうやって20才近くまで毎日暮らしていたら、それが当たり前だと思い、疑問も抱かずにいても不思議は無い。
そうしたら突然父親が亡くなり、財産も減ったからと言って社会に放り出されてしまう。生きて行く寄る辺が無くなる。

本当はそうならないように、親は子供に生活力をつけさせたいと思うものだろうが、森鴎外という人は違った。ただただ自分の愛情のまま、娘たちを猫可愛がりした。
きっと自分の力で一生お金の苦労をさせないで済むような良い夫に嫁がせるつもりだったのだろう。

茉莉さんは毒舌家でも有名だった。週刊誌に舌鋒鋭く、テレビタレントの批評を書いて、それが人気を博した。
彼女独特の美意識を貫いたこともさることながら、森家に出入りするたくさんの人間たちを小さい頃から観察して、観察眼を養っていたに違いない。

彼女の「生まれ」は変えられない。だからそれによって彼女の身についた価値観が社会一般の常識と照らしてどうやら違うようだと気づいた時、人間は学習して社会に合せようとするか、自分独特の価値観をずっと貫くのか、生き方が分かれるところだと思う。

彼女はもちろん自分を曲げるような人ではない。彼女はありのままの自分をずっと死ぬまで貫いた。

最初のうちはゴミ屋敷に住む変人と彼女を見ていた人たちも、彼女がぶれないので度肝を抜かれた。
「ドッキリチャンネル」(テレビ番組ではなく雑誌の連載)で人気が出たと言うのがその証拠だ。社会の方が彼女にすり寄って来たのだ。
ここまで来れば本物だ。森鴎外のDNAを受け継ぐ者としての面目躍如である。

お嬢さまという立場に生まれると人間弱くなると九子は思っているのだけれど、森茉莉さんは強い!
そう言えばお隣の韓国にナッツ姫とやらがいたけれど、彼女は強いのではなくわがままで物の道理がわかっていなかっただけだ。


19歳で父親を亡くす。それも今まで全てを与えてくれていた理想の恋人であった「パッパ」が突然居なくなる。
そして自分は父の愛した欧羅巴(ヨーロッパ)にいて、死に目にも会えなかった。
彼女が以来、父親を神格化し、理想化して行ったとしても無理はない。

本当に気の毒な身の上ではあったが、彼女の才能はお陰で花開いた。
これが森鴎外が長生きして、潤沢な印税で食べていかれる身分であったなら、森茉莉さんみたいな人が物書きを職業にしようとは考えられない。
若い頃からの美食で肥やした舌で、それだけは得意だったと言う大好きな卵料理でもたくさんこさえて、何もせずに優雅に生きて行く方がもしかしたら茉莉さんらしかったのかもしれない。


さて、森茉莉さんのは贅沢貧乏。我が家のは子沢山貧乏の上に、なんと言ってもビンボー神さん(M氏とも言う)のご光臨による多大な影響。(^^;;

森茉莉さんには比べるべくも無いけれど、日頃娘たちに「ママはお嬢さまだから・・」と言われてる九子も、8年前に父母を亡くしてからもなんとか独り立ちして薬局やっておりますので、世の中のお嬢さま方、あなたも大丈夫です!どうぞご心配なく! ( ^-^)


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伊閣蝶

森茉莉さんの著作、私は「日曜日には僕は行かない」が非常に印象に残っています。
その出自と波乱に満ちた生涯、そして残された作品。
一言ではとても言い尽くせない印象を抱いておりましたが、さすがに九子さん、拝読していて、すとんと胸に落ちました。
by 伊閣蝶 (2014-12-28 15:49) 

九子

お返事遅くなってすみません。
伊閣蝶さんご紹介の「日曜日には僕は行かない」は読んだことありませんでしたが、早速読んでみたいと思います。

伊閣蝶さん、私など大昔に読んだのできっと浅い読み方しかしていないのです。でも、ご推薦の「日曜日には僕は行かない」も含めて、読み直ししてみようと思っています。

彼女のような文章を書ける人は彼女以外に見つかりません。(私が知らないだけかもしれませんが・・)やっぱり森鴎外のDNAだとしみじみ思います。

今年もたくさんコメント頂戴し、心より感謝です。
良いお年をお迎えください。( ^-^)
by 九子 (2014-12-29 23:15) 

ぼんぼちぼちぼち

森茉莉さんの作品 まだ読んだことないので、機会があったら読んでみようと思いやす。
よい年をお迎えくださいでやす(◎o◎)/
by ぼんぼちぼちぼち (2014-12-30 21:02) 

九子

ぼんぼちさん、こんばんわ。
私にしたら、素早いお返事を。(^^;;

この一年もnice!やコメント頂いて誠にありがとうございました。

森茉莉さんの生まれ、もしかしたらぼんぼちさんに部分的に重なるものがあるかもしれないと思います。もちろんブログを読ませていただく限り、大変な目に遭われたのだろうけれど、お金には糸目をつけずにレストラン通い(それが幸せとは決して思わないけれど)されたり、非常に非日常的な家族関係を過ごされたと思います。

ぼんぼちさんの感性とか才能とかは、そういう生活を外しては育まれなかったように思いますから、やはり大事な核のような気がします。

これからも素敵な作品、見せて頂くのを楽しみにしています。
来年もどうぞよろしく!( ^-^)
by 九子 (2014-12-30 22:30) 

タッチおじさん

高尚な知識と高い見識、何時も楽しみに
拝観致しております。
どうぞ良い年をお迎え下さい。
by タッチおじさん (2014-12-30 23:38) 

九子

タッチおじさんさん、いつもnice!をありがとうございます!
いえいえ、高尚なんてとんでもない!知ったかぶりして好き勝手書いてるだけですので誤解の無いように・・。(^^;;

もしよければ九子にメールを頂けませんか?左欄上にメルアドがあります。
コメントくださったどなたにもお願いしています。

お返事お待ちしています。
そして、良いお年を!( ^-^)
by 九子 (2014-12-31 12:07) 

youzi

今年1年お世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。
新しい年が素晴らしい年になりますように!
by youzi (2014-12-31 23:44) 

さきしなのてるりん

明けました。(*・_・*)
今年もどうぞよろしくお願いします。m(__)m

by さきしなのてるりん (2015-01-02 22:35) 

Hirosuke

迎春の句
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春夏秋冬、日々は去り往き、巡り来る。
早く来い来い、春の陽よ。
誰も寝てはならぬか大晦日。
大晦日とて我は寝て、往く年、来る年、春近し。
それでも遥か彼方な春うらら。
年の初めの試しとて、百人一首も遥か哉(かな)。^^
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本年も宜しく御願い致します。

by Hirosuke (2015-01-02 23:14) 

九子

youziさん、明けましておめでとうございます。
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
以前拝見したお写真で、すごく美人でほっそりしていらっしゃって、正直太らなくて羨ましいなあと思っていました。またたくさん美味しいケーキやお料理をご紹介ください。( ^-^)
by 九子 (2015-01-03 22:41) 

九子

てるりんさん、ご挨拶有難うございます。
こちらこそ!m(__)m
by 九子 (2015-01-03 22:42) 

九子

何かとてもほのぼのとしてネアカ(古いかしら?)な感じが、Hirosukeさんらしいです。
こういう世知辛い世の中では、こういう感じがいいですね!
今年もどうぞ今までどおりお付き合いl下さいませ。( ^-^)
by 九子 (2015-01-03 22:48) 

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