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氷点 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

氷点(上) (角川文庫)

氷点(上) (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫

氷点(下) (角川文庫)

氷点(下) (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫



アメリカではほとんどの本が電子書籍に取って代わられてしまったと聞くが、日本ではまだまだ紙の書籍が幅を利かせている。
kindleの電子書籍が紙の書籍よりも安く手に入るのは知っていても、九子あたりでも頼んでしまうのは電子書籍ではなく中古本だ。

九子あたりでも・・と言ったのは、紙の感触がどうのとか、インクのにおいがとか、そう言ったこだわりには無縁の人間である九子にしても・・という意味だ。

でも一体何故だろう?

本は溜まる。溜まり続ける。その挙句、整理整頓下手な九子の部屋はいつの間にか本で溢れている。

電子書籍ならばそれが無い。
一生かかったって読みきれないほどの量の本を、端末に蓄えておける。

これを書いていて気づいたのだが、ブログで読書感想文をアップする時、電子書籍ならば便利だ。
たぶんコピー&ペーストは出来ないにしても、引用するのはとても手軽で、散らかり放題になってる本の所在を探し回る手間はいらない。

それなのに、九子は相変わらず中古本を買い続ける。
日本人の感性っていうやつか?
アメリカ人みたいにすべて合理的に割り切れないからか?

比べてみるとわかるが、実はやっぱり紙の本の方が多少情報は多いのではないかと思われる。
たとえば著者のプロフィールとか、誰かの後書きとか、電子本では省かれている部分も結構あると思う。

そういうところに価値を見つけてお金を出すのが日本人なのかもしれない。


九子が初めて読破したkindle本が三浦綾子の「氷点」上・下巻だ。
九子にとっては、たしか島田陽子が主演だったテレビドラマの印象が強い・・・・と書き始めて、調べてみたら主演は内藤洋子だった。
だから九子はドラマは見ていなかったのかもしれない。

ドイツへ行く時に、荷物にならないし、何かの折に役に立つかとNexusに入れておいたのだが、結局読書する暇などまったく無くて、端末の中にずっと眠っていた。

年末も近くなった頃、三浦綾子の夫君だった三浦光世氏が亡くなったという報道があった。
三浦綾子氏よりも年下の彼は、同じクリスチャンとして彼女に影のように寄り添い、秘書の役目をずっと果たしていたと聞いた。
そんな訳でなんとなく読み始めた。


もの凄く面白かった!


時代は大部古い。終戦直後、北海道旭川で病院を営む医者一家のお話だ。
洞爺丸という青函連絡船の大事故の話も、重要なモチーフとして盛り込まれている。

医者の妻というのはたいてい美しいが、夏枝も例外なく美貌に恵まれ、大学教授の父親を持ち、たぶん父が見込んだ辻口と結婚する。
長男の出産は二十歳の時だそうだ。
十代で結婚し、二十歳で母になる。当時はそんな時代だったんだろうか?

彼女のこの年齢を押えておくと、これから起きる彼女の自分の美貌に対する自信も、女性として見られない事への不満も、すべからく同情出来る気がしてくる。
大学生の息子の友人に熱い視線を送るなんてどうかしていると最初は思ったが、良く考えたら彼女は当時まだ40歳になるかならずのはずだったのだ。
それから20年も経つ頃には、「ミセス・ロビンソン」の話だってそんなに目くじら立てなくてもいい時代になるっていうのにね。( ^-^)


辻口病院の院長辻口啓造は、真面目で実直で、穏やかな男である。そして、優しく慎ましやかで、家事を完璧にこなす美貌の妻を誇りにしている。

彼らには気持ちの優しい徹という長男と、愛苦しいルリ子という3歳の娘がいた。

そのルリ子が、男に連れ出されて川の中で殺されてしまう。

その時母親の夏枝は、プレイボーイで名高い若い医師の村井と密会中で、娘が家から出て行ったのに全く気がつかなかった。


夏枝は半狂乱になり、精神の均衡すら怪しげな数ヶ月を過ごした後、急に、亡くなった娘の代わりに女の子を育てたいと言い出す。

啓造は、それが妻の癒しになるのであればと、親友の高木に相談する。

産婦人科医で乳児院の嘱託医でもある高木は、「実は犯人の娘を預かっているのだが、まさかねえ。」という話をする。


ルリ子を殺した犯人の佐石は不幸な生い立ちの男で、貧困のため碌に学校へも行けず、悪条件の中低賃金で長いこと働かされ、ようやく結婚するも出産時妻に先立たれて、生まれたばかりの赤ん坊を一人育てていた。

たぶん出来心で連れ出したルリ子が母親を恋しがって泣き出したので、その泣き声が娘を育てている鬱憤と重なって、はずみで殺してしまったものと思われる。
その後佐石は留置場で首をつって死んでいるのを発見され、生後3ヶ月の娘だけが一人残されたのだ。


最初はもちろんそんな馬鹿なことを!と一笑に付していた啓造だったが、ある日、夏枝の白い首筋のキスマークを目ざとく見つけ、村井に対する嫉妬心を抑えきれなくなる。
そして夏枝への復讐のために犯人の娘を貰い、何も告げずに夏枝に育てさせようと思い立つ。

もちろん密かに夏枝を慕う高木には、もっともらしく、「『汝の敵を愛せよ。』という言葉を実践してみるつもり・・。」などと言いながら。


貰われてきた女の子は、そんな素性の娘とは信じられないほど可愛らしく、また性格も温和で、長ずるに従い、美しく明朗で、才気煥発な非の打ち所の無い娘へと成長する。
そしていつしか長男の徹は、彼女に対して恋心を抱くようになる・・・・・・・・・・・。


三浦綾子は新聞の連載小説に応募して、並み居るプロの小説家を差し置いて新人ながら大賞を受賞した。夫の光世氏が大そう激励してくれたそうだ。
賞金は当時の金で一千万円だったというから破格だ!今で言えば1億円よりもずっと価値があっただろう。

何よりストーリーの構成がうまい。

ここまでの話だって「そんな話、現実にある訳無い!」と思いながら、三浦綾子氏にまんまと騙されて、自分の目の前で起こっていることのようにハラハラドキドキしながら読み進んでしまう。


心の機微というのだろうか、相手の心のうちを慮(おもんぱか)って、ああでもない、こうでもないと憶測しようとする。
こういう事って、外国でも、恋愛している二人の間にはあるだろうけれど、一般の人々が相手の心を探りあう文化を持ちあわせているのは恐らく日本だけだろうから、我々日本人の読者は、作者の意図通りに登場人物に気持ちを重ね合わせて、喜怒哀楽のはざまで大いに心が揺れ動く。


話の中に大悪人と言える人間は一人も出てこない。

殺人犯の佐石が一番の悪人のようだけれど、彼は罪を悔いて自殺してしまう。また、彼の悲惨な生い立ちには同情できる部分も多い。

夏枝の罪は、村井と浮気したこと、それから、養女の陽子に一時期から冷たかったこと。そして、最後に、陽子の身の上を暴露してしまうこと。
一つ一つを取り上げてみれば、この状況下で何も・・・という事はあるが、ひどく責められるような事でもないような気がする。
言ってしまえばあまりにも人間的であり過ぎたということになろうか・・。

啓造の罪、この悲劇の根底を作り出した彼の罪が、もしかしたら一番重いのかもしれない。


クリスチャンである三浦氏は、人間の原罪を問いただす。
原罪とは、九子の浅い知識で言えば、人間全てが背負い持っている罪のことで、キリスト教ではこれがあるから人間は生まれながらにして悪なのだと言う。

純真無垢な娘として、完璧な善として描かれている陽子にも、背負わされている罪がある。父親が殺人犯であるという罪だ。

良く考えてみると性善説の仏教にも同じような概念がある。
悪業縁である。生まれ代わり、死に代わりしながら生き続けてきた間に重ねた罪である。

原罪も悪業縁も、どちらも本人のあずかり知らないところにある。
自分が作った罪なら仕方が無いと諦めもつくが、過去世の自分が、更には縁もゆかりも無いアダムとイヴが作った罪を今の自分が償うなんて、どうにも理不尽な気がする。

そして、キリスト教でも、仏教でも、原罪や悪業縁を減ずる方法は、ただ一つ!
どちらも同じ懺悔(ざんげ)なのだ。
こんなに違う二つの宗教で、この一点が一致しているのは凄いことだと思う。

実は最後の最後まで、九子は考えさせられながら、ページをめくるのが楽しみで楽しみで読み進めていたのだが、最後に来て衝撃を受けた。
えっ?そんな終わり方でいいの?と、ひどく落胆した。

一つ目は、これはもうはっきりと言ってしまおう。
自殺を図った陽子が助かったことだ。

これは隠しようが無い。なぜって、「続氷点」上下巻が出版されていて、その主人公は医大に進学した陽子なのだそうだから・・。

まあそれは良い。そういう幸運もあるのだろう。

ところが更に驚愕の二つ目の事実を目の前にして、ここに来て三浦綾子氏は氷点ファンの人々の声に屈したのかもしれないと思った。
よくあるではないか。人気者の誰それをもう少し生かしておいて欲しいというファンの声で、ドラマが変わってしまうことが・・。

陽子を生かしてしまったこと。それこそが「救い」なのかもしれないけれど、なんだか割り切れない。
陽子が死んで、そのことの重みを、家族のそれぞれが真摯に受け止めて、次に繋げて行くのでなくちゃ、三浦綾子が原罪を描いた意味は薄くなってしまうのじゃないのかな?

 

そんな訳で九子は、「続氷点」上下巻はいまだ読めずにいる。


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